ちょっとほっといたら半年経ってるじゃないか!
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さあこれから仕事だと出かける場面なのだが、アベンジャーズ基地からはまだ出かけるメンバーはいなかった。
「なんでダメなんだバッキ―」
「うるさい。どけ」
「嫌だ。どかない」
ミーティングルームの出口を高齢者二人が塞いでいるからだ。
「ねえ、あれ邪魔なんだけど」
「私に言うな」
「スーツ着てどかしなさいよ」
「絶対嫌だ」
ナターシャに突かれたトニーは断固とした口調で拒否をする。あの爺二人に挟まれると碌なことが無い。生身でアイアンスーツを壊す奴らだ。
細かい経緯は知りたくもないが、例のシビルウォー以来結構な期間、逃亡生活を送っていた超人二人は、どうもその間に割りない仲になったらしい。本人たちがはっきりと言ったわけではないが、再会の場面でいきなり手をつないでいたので関係者一同「ああ…」と視線を伏せたものだ。
スティーブ・ロジャースは思いきり割り引いて見ても、強く賢く誠実で、しかも見栄えもいい男(老人)だったが、こと色恋関係については半径5メートル以内にはなるべく近づきたくない物体だった。
今はなんと相方に『いってらっしゃいのキス』をねだっているのだ(さすがにまだ洗脳が解けきっていないバーンズは人前に出せない)。
「なんで急にだめだなんて言うんだ」
しかも聞いてもいない周囲に、逃亡中の生活の一端を教えるようなことを言う。
そうか。爺さんたち楽しいハネムーンだったんだな。
「人前だろうが」
恐ろしいことに洗脳の解けていないバーンズの方がまともだ。
そう思いながら見ていると、スティーブがくるりとこちらの方を向く。
「大丈夫だバッキ―。トニーも出かけ際にしょっちゅうしている」
唐突に名指しをされて迷惑この上ないが、「していた」と過去形ではなく現在形にしている辺り、年よりなりに気を使っていることは分かった。なので(そうなのか)と言いたげに向けられるバーンズの視線に対しては、可能な限りフェアな言い方をしようと心に決める。
「挨拶のキスは確かに自由だが、5秒以内にスムーズに終わらせられないときは諦めるものだ」
経験と実績から重々しくそう告げてやると、たっぷり2分以上はごねていたアメリカの象徴はがっくりと肩を落とし、その相方は、
「ほら、行って来い。気を付けろよ」
と実に男らしくその肩を叩いたのだった。
終わる