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昔から酒は好きではなかった。
体質に合わないのか、楽しく飲めたためしがない。ビールでも二杯を越えると気持ち悪くなってくるし、無事に帰ってこれても翌日まで大体気分が悪い。陽気に酔って、しかも醜態を晒したことのない友人の姿をうらやましく思ったものだ。
「なんだよスティーブ、空いてるじゃないか。もっと飲め」
「もういい。これ以上飲むと気分が悪くなる」
「そしたら連れて帰ってやるから心配するなって、おーい、こいつにもう一杯!」
「やめろってバッキー!今の注文はなしだ、いらないから!」
もちろんそこに女の子などがいた場合、どちらが好感を持たれるかは言うまでもない。
血清で体が変化したあとは、逆に体力が付きすぎたのか酔いをさほど感じることがなくなった。作戦成功後のバーで仲間と祝杯を上げる時、気分を高揚させていたのはアルコールの作用ではなく周囲の音や雰囲気だ。
「ざまをみろだぜヒドラの野郎共」
「おいもう一杯!」
自分が祖国のための戦いに参加し貢献できているということ、認め認められた仲間がいるということ。さらには幼馴染である友人が、昔と同じ顔で笑いながら、そこで自分にクラスを掲げてみせるということ。
その彼が雪の崖下に姿を消した後、アルコール度数の強い酒を浴びるように飲んだ酒場で、スティーブは血清の力で変化した自分の身体は代謝が早すぎて、酔いを感じるまもなくアルコールを分解してしまうということを知った。それ以来、酒を飲んで酔いを感じたことはない。
・・・
「バッキー」
スティーブが呼びかけると、窓から外を見ていた相手は無言で振り返った。シベリアで機械の腕をもぎ取られた手当ても終え、ワカンダでの生活は今のところ静かだ。
アフリカの小国、という認識しかなかったワカンダは、実のところ豊かな鉱物資源を元に高度に発達した科学を持っていた。雲海が見渡せるバルコニーは、むき出しにみえて実のところシールドに物理的視覚的に守られている。国王直轄の奥まった敷地だが、そうは思えないほど広々とした景観が広がっていた。
「傷の具合はどうだ」
「どうってことないさ。もともと七十年前に無くしてる」
何度目かの問いかけに小さく笑って肩をすくめる。再会したころほどの暗さはないが、今の旧友は穏やかなあきらめとでも呼ぶような空気を身につけつつあった。
「少し飲まないか?」
スティーブが国王から差し入れられた瓶を掲げて見せると、バッキーは驚いたような顔をしてから小さく頷く。グラスに酒を注いで雲海の見渡せる場所に腰を下ろした。
ウィンターソルジャー計画がないものとわかり、危機と同時に超人的な兵士の必要性も世界から消えている。
『洗脳を解く方法が見つからない限りは冷凍睡眠している』
バッキーがそうスティーブとティ・チャラ国王に意思を告げたのは数日前だ。反対する理由も見つからず、今二人は準備が整うまでの猶予期間を過ごしている。
「一緒に飲むのは久しぶりだ」
グラスを渡しながらスティーブが思わず呟くと、相手は隣で噴出す。
「なに?」
「俺なんか酒を飲むの自体七十年ぶりだぞ」
「ほんとに?」
訊きながらも頭の半分で納得する。任務のあるときだけ目覚めさせられ、ひたすら任務を遂行する暗殺マシンに、酒を飲む機会などなかっただろう。グラスを掲げて軽く合わせた。喉を通り過ぎる琥珀色の液体は滑らかで、ふわりと香りが鼻腔を抜けていく。
「うまいなあ」
「うん」
「いい酒だよな」
「うん。陛下からの差し入れだからね」
「高そうだ」
「値段を聞くのはやめておくよ」
くすくす笑いながら互いのグラスに注ぎ合う。久しぶりに飲むことを楽しめそうな気がした。
・・・
自慢ではないがこの世知辛い世の中で、壊されても壊されても、何度でも立派な基地を迅速に作りなおしてくれるスポンサーなんてツチノコ並に珍しいと思う。
もちろん相手から大げさな驚嘆や感謝をされたら、
「君はコップが壊れたら新しいのを買わないのか?」
などと言ってあしらうにきまっているが、そこはそれ、大金をポンと動かすときの形式美というものだ。相手は驚き喜び恐縮し、こちらは鷹揚に頷くまでがワンセット。
だが、一応ゼロが六つも七つも八つも九つも並びそうな経費をかけて建て直したアベンジャーズの本拠地について、今日も当たり前の顔をしてたむろしている面々は、スポンサーの貢献をほめたたえる気など欠片もないのは明らかだった。賭けてもいい。
「おい、しけた顔をするなよ」
大怪我からしぶとく復活した友人に肩を叩かれ、肩をすくめたトニー・スタークは、室内をぐるりと見回した。先日の一件で、一番被害を受けたと言っていい空軍大佐は、彼なりに内戦当事者間のことを気にしているのだが、実のところ旧友の推測するような意味で渋い顔になっていたわけではない。部屋の隅のソファにちらりと目をやり、眉を顰める。
「まだひっついてる」
視線の先を見やって、ローズ大佐は眉をひょいと上げる。
「そしてお前はしつこく気にする」
ソファに並んでなにやら熱心に話しこんでいるのは、先日和解した「アメリカの象徴」だ。そして隣にその友人の元精鋭部隊。知り合って数年になり、それなりに顔を見る時間も多かったが、その表情は面白みのないまじめそうな顔と、なにやら説教を垂れるときの不快そうな顔でほぼ占められていた。父親から聞いた話だと、超人兵士を作る血清は、悪い奴はより悪く、逆もまたしかりというから、元から真面目で頑固だったらしい奴はより暑苦しく鬱陶しい性格になっているのだろう。
だが、そのアメリカの象徴は先ほどからいつ見ても見たことが無いほど全開で笑っている。ものすごく珍しい。
「一杯もらうぞ」
二人の近くにいたサムが、酒を取りに来たので、
「なにやってんだあれは」
と顎をしゃくる。サムは微妙な顔をして、
「近所に住んでた因業な爺さんちの犬の話から、サーカスで芸をしてた犬の話になったところだ」
なにせ九十年前の話なんで頷いてるより仕様が無い、と付け加えられて肩をすくめた。
「まるで年寄りの昔話だな」
「そのものだろ。同世代で一緒にしとけよ」
後ろから誰かが言った声に、
「わかってる」
と顰め面をしてトニーは返した。
両親の暗殺に使われたのがウィンターソルジャーだったことを知った当初はそれこそスクラップにしてやるつもりだったが、ナターシャからの情報で改造と洗脳の経緯を知り、
「悪いと思うなら治療装置の実験台になれ」
という名目で、指名手配が解かれた後も身を潜めていたバーンズを呼び出したのは数ヶ月前だ。諸々あった内戦のことは横に置いて、自分が良いと言っているのだからとにかく治療に来いと言ったら、呼んでいないアメリカの象徴まで一緒についてきた(予想通りではあったが)。
自分自身のために作ったトラウマ軽減装置を活用し、治療自体は順調に進んでいるが、なにせ拘束され改造され暗殺に使われた記憶が七十年分なので、その量は膨大かつ深刻で、治療側にもケアが必要なほどだった。神経の太さでは並々ならぬナターシャが、「あれはひどい」と言っていたのだから予想していなかったわけではないが。
しかしバッキー・バーンズの惨たらしい過去の再現映像は、すべて記録に留めている。暗殺者が陽のもとに戻るには、感情に訴えるエピソードが必要だ。キャプテン・アメリカに関する「勇気と名誉と犠牲の物語」に、いずれ抜粋して加えられるだろう。
「まだ笑ってやがる」
いったい何がおかしいのか。もう一度呟いたトニーに、
「もうほっといてやれよ…」
と、後ろで誰かが呟いた。
「腕の具合はどうなんだ?」
スティーブの問いにバッキーは無言で左腕を伸ばし、テーブルの上においた紫色の果実を取り上げると手の中でくるりとまわしてみせた。
「皮でも剥いてやろうか」
「いいよ。動かしづらいとか、違和感がないかと思っただけだ。そもそもお前が果物の皮を剥いたのなんて見たこともないんだが」
「やりゃできんだろ」
ふざけたような言い方が少し昔の彼らしくて、スティーブは思わず笑う。リハビリのように握ったり開いたりしてみせる左腕は、リアクターに焼かれて粉々になった義手に替えてトニーが作ったものだ。治療のことといいあえて口には出さなかったが、彼からの和解の意思であるのは明らかだった。
「いまさらだけど、時代が進んでて驚くよな」
「うん、まあ、でもトニーの技術は時代ともまた違うけどね」
スタークの血だろうか。父親も明らかに時代の先を行っていた。
「過去の事情は分かったから、治療に来い」とトニーに呼び出され、冷凍睡眠から目覚めさせられたバッキーは、最初のうちは治療以外は一切部屋から出ようとしなかった。トニーが軽薄な口調を装って誘ってもだ。だが数ヶ月をすごすうちに徐々に他の皆と顔を合わせる場にいることもでて来た。スティーブはそれにひどくホッとする。そして今日のような場に彼が出られるようになり、それを他のメンバーも受け入れているのがひどく嬉しい。大した量のアルコールは飲んでいないのに、ふわふわと気持ちが高揚していた。
「えらく上機嫌だな」
さっきまでカウンターのほうにいたトニーが近くに来たので、
「酒の酔いって精神状態と関係するんだな」
と今日の発見を伝えると、
「「そりゃそうだろうよ」」
と隣と正面から新旧友人同時に呆れられてしまった。
…というわけで和解の未来が来ると良いなと。紙面が尽きたから終わる