書こうと思ったものが急に書けなくなり、他のネタが頭を回りだしたのでとりあえず先に書く!
まだ不慣れなステバキ。
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「なあ、大丈夫かバック」
汗を浮かべた背中に、何回目かもうわからないほど同じことを訊いてしまう。
うつ伏せになり、顔を見せない彼はその度に「大丈夫だ」と応えてくれるけれど、重なった身体からは震えと緊張が伝わってくるからだ。
身体を重ねるようになって最初の頃は、スティーブも痛みの方が強かった。ただでさえ不慣れな上に、不自然な同性同士の行為なのだから当たり前だ。
それでも手に入れたい相手を抱きしめて、その中に入るという行為そのものに興奮した。お互い快感どころではなく痛みに冷汗を流して、それでもなんとか終わった後で青ざめた顔を見合わせて吹きだした。馬鹿なことをしてるよなと言って笑いあったのが最初の夜だ。
だが、行為を繰り返すうちに感覚は変わる。
バッキ―はほどなく息を吐いて力を抜くことを覚え、スティーブを柔らかく奥へ受け入れてくれるようになった。そうなってみたとき味わった快感は、文字通り初めての体験で目がくらむほどだ。
肉体的なそれに相手が文字通り必死に自分を受け入れてくれている悦びが加わって、まさに頭が真っ白になる。
一方でバッキ―の側はいまだに苦痛の方が大きそうで、それがスティーブには気にかかっている。もとよりかなり強引に手を伸ばして応えさせた自覚があるので、自分だけが気持ちのいい思いをしているというのは嫌だった。そうそう上手く同時に慣れるのは無理だとしてもだ。
さらにバッキ―が何も言わず、苦痛や痛みをぎりぎりまで我慢してしまうから始末が悪い。
少し前に、夢中になったスティーブがうっかり我を忘れてやりすぎて、黙って耐えていたバッキ―がついに限界になったらしく朦朧としてえらいことになった(混乱して状況が分からなくなったらしく、いきなり拷問真っ最中のような叫び声を上げた)のだ。
もちろんスティーブは凍り付き、意識を戻して(やばい)という顔になったバッキ―と、その後延々とベッドの上で謝り合う一夜になったのは一番苦い思い出だ。
さすがにスティーブはしょげかえり、その後しばらくバッキ―に触れることができなくなったのだが、数日後バッキ―が不意にキスをしかけてきて、
「もうとっくに治ってるぞ」
と囁いた途端に復活した。そのまま格闘のような勢いでベッドに倒れ込むとバッキ―は「現金だなお前」とげらげら笑ったが、半分以上はわざと昔のようにふるまってくれたのだろうとわかっている。
優しくしたい。
気持ちよくさせたい。
そう思うときに一番厄介なのがバッキ―自身だ。もとからスティーブに甘い上にバカみたいに我慢強く、いまは重度の罪悪感まである。
「痛かったら言ってくれ」
そう何度言っても、言ってくれた試しがない。そして情ないことにスティーブは前回のことがあってもやっぱりふと気が付くと夢中になって気づかいを忘れてしまうことがしばしばだった。
「バッキ―」
顔が見えればもう少し察することができるのに、と思いながらその顎に手をかける。振り向いてキスに応えるその表情に、痛みを耐える色が見えないのにホッとした。
舌をからめて吸い上げると、バッキ―の喉がくう、と鳴る。口を合わせて口内を探り合うことが気持ちいいことも、抱き合うようになって少しずつ知ったことの一つだ。
息が苦しくなるまでキスを続けた後、なごりを惜しみつつ唇を離した。
「ん」
少し鼻にかかった声と、少し開いた口からのぞく舌が、ちろりと唇を舐めたところまでは認識する。上気した頬ととろりとした表情に、ぶちり、と血管が切れる音が聞こえたような気がした。
熱と汗と荒い呼吸とでチカチカするような意識の中で、その小さな声が引っかかってきたのはどのくらい後だったのか分からない。
だががくがくと揺すぶられながら何度目かの熱を受け止めようとしているバッキ―の口が微かに動いていて、スティーブは背中から覆いかぶさるように、その口元に顔を近づける。
微かな声に耳を澄まし、そして固まった。
・・・
室内を超人の脚力で走り回るな、と以前確かに言った。
真面目な相手は、それ以来きっちりと約束を守っている。だが、競歩でも十分に迷惑だった。
「待てよバッキー」
「うるさい」
「だってお前、あれってよっぽど」
「こんなとこでする話かよ」
「じゃあ部屋に戻ろう」
「話したくないって何回言わせる気だこの間抜け」
両者の足が床から離れることはないが、時速20キロは越えている。
次は緊急時以外は時速4キロ以下で歩けと言おう、とトニーは窓の外の景色に現実逃避しながら考えた。せめて室内では徐行しろジジイども。
この間のシビルウォーで痛い目を見たので、メンバー間のトラブルがあるなら放っておけないが、この場合そうでないことはわかっている。
アベンジャーズチームの面々は、日々変化する二人の立ち位置や言葉の端々で、この90歳ごえの若者二人が、実にじれったくグズグズと距離を縮めていくのを知る気がなくても気付いてしまっていた。少し前、ついに本当にできてしまったらしいこともだ。
他人、しかも両者ごつい野郎同士の恋愛の進捗状況など、別にリアルタイムで知りたくなんかなかった。実に居心地が悪かった。
「…で、今度はどうしたっていうんだ」
トニーはうんざりと隣でコーヒーを飲んでいるナターシャに尋ねる。
同じことをさっきまで傍にいたサムにも訊いたのだが、「俺の口からは言えない」と逃げられてしまったのだ。
「昨日、バーンズが認識番号を繰り返してたんですって」
昔のね、と付け加える。
彼女もそれしか言わずに行ってしまったのだが、数秒後に状況を理解する。苦痛や拷問を耐える時に兵士が唱えるという認識番号。それを繰り返していた、なるほど。
「バッキ―!」
事情を察したところでキャプテンが相棒の腕を掴んで引き留めるのがガラスに映っているのを見てしまう。
(そりゃあ、話したくないよなあ)
心の中でバーンズに同情する。首を突っ込むと馬ならぬ超人に蹴られて死にそうなので、心の中にとどめたが。
「だから、別にいいから気にすんなって」
「良いわけないだろ、お前にばっかり」
「仕方ねーだろ、そういうもんだし」
「いや、違う。改善の余地はあるはずだ」
本人たちは伏せているつもりなのかもしれないが、そろそろ止めようかなあと思いつつ振り返ると、ミーティング用のスペースに腰を下ろしたキャプテンが、少し離れて座る相手に真剣な顔で言うところだった。
「やっぱり準備を僕がした方がいいと思う。お前はいらないと言ってたけど」
何のことだが多分その場の全員が分かってしまう。
やめんか!
と思ったその瞬間、「ぐあー!」とも「ガアー!」ともつかない雄たけびと共にウィンター・ソルジャー化したバーンズが座っていたソファをメタルアームで掴み上げ、キャプテン・アメリカに投げつけた。見事にヒットしてキャプテンは座っていた椅子ごと壁にぶち当たる。
周囲のものは壊れたが、ソファが一人用だったのがせめてもの幸いだった。
(そりゃあなあ)
フロアにいた観衆の心は、その瞬間多分一つだった。
「すまん」
その後バーンズはまた罪を重ねてしまったような顔でトニーに謝罪したが、さすがにトニーは
「気にするな」
と軽く手を振り、実は高いソファの弁償代金をバーンズの後ろで神妙な顔をしているキャプテン・アメリカに請求したのだった。
おわる
思いついたのは、
「最中がきつくて認識番号唱えちゃうバッキ―、そんなに苦しいのかとショックを受けるキャップ。だけどみんなの居るフロアで『もっと事前に慣らそう、僕がやる』的なことをキャップがいうもんだからバッキ―がウィンソル化してソファー投げつける。キャップソファに挟まれて吹っ飛ぶ。あっはっは」
という数行だったんですが、書くと無駄に長いね…